『あの時の彼と、結婚しておけば・・・』


よく聞くタラレバ話である。


当時はイマイチ乗り気ではなかったが、
いま考えてみると彼が一番マトモ・・・。


何かがうまくいかない時期に
ふと思い出される彼らの存在・・・。


思い出は美化されただけなのか、
本当に素敵な人であったのか、謎に迫る。


 


絶賛婚活中の友人がいる。
モデルのようなスタイルで20代。


男はウジャウジャ寄ってくるがその分、
事故にもたくさん遭っている。


そんな彼女に思いを寄せる弁護士がいた。
片思い歴は2年を越した。


何度も交際の申し出を断っているが、
食事だけは定期的に行っているようだ。


聞けば人柄も良く、真面目で仕事熱心。
見た目も悪くないということで、素敵なお方。


私ならその足で
婚姻届を出しに行くが・・・。

 
彼女がなぜ、
交際を躊躇しているのか。


『キスできるのか、わからなくて・・・』

 
体が受け付けるかどうか、
不安に思うそうな。


彼女の周りの友人たちは、
勿体ない!と猛プッシュ。


『一度関係を持てば、そんなことは気にならなくなるから!』


彼の事は悪からず思っているので、
彼女は決意する。


『今日こそは私、彼を受け入れる!受け入れる・・!』


謎の呪縛を己に課して、デートに挑んだ。
いつもは絶対に繋がない手を自ら繋いでみた。


緊張しすぎたのか、
大量の手汗が噴き出す彼。

 
手は握力を失い、
スポンと抜ける事態に。


彼はさり気なく手汗を乾燥させ、
再チャレンジしてきた。


ところが焦る気持ちが大きすぎて
指が絡まないのだ。

 
彼女の掌を彼の指が
カサカサと撫で回す。
 

くすぐったいし間抜けだしで、
笑いそうになった。

 
三度目の正直・・・!
ついに彼女の手を思い切り掴んだ。
おお!やればできるじゃないか!


寒い夜であったので彼はそのまま、
握った手を自分のコートのポケットに入れ・・・


・・・ようとしたが、
入り口が小さすぎて2人分の手が入らない!


ポケットに足止めをくらった二つの掌・・・。

 
何度もグイグイと、押し込もうとする彼。
諦めて、元のポジションに戻したそうな。


彼女は不安でいっぱいだ。

 
『あぁ・・・今日は決意したのに、心がついていかない!』


別れ際、ついに彼は勝負に出た。
彼女の肩を両手で掴んでキスを・・・


・・・しようとしているのだが、
緊張でガクガク震える手は、
彼女の肩に触れられない。


体にあと2㎜くらいの所で、
手が止まっている。
ハンドパワーを送ってくるのだ。


占い師が水晶玉に触れるような
イメージだと思ってもらってよい。





何だか可愛い彼ではないか・・・。
そんな人と付き合ってみるのもいいのでは・・・。


しかし彼女が心惹かれるのは
一癖も二癖もある、手強い世慣れた男。
女性の扱いもうまく、なかなか落ちない。


気持ちはよくわかる・・・。
謎のチャラさは強いのよ。 


ハッとして、彼女に言った。
 

『私の周りで、あの時結婚していればよかった
と後悔に上がるのは、その彼みたいな人だ・・・!!』


そう。あの時の、
あの彼と結婚しておけば・・・
まさに『あの彼』である。


もちろん付き合ったからと言って、
必ずうまくいくものではない。


ただ『もしもあのとき』の定番として、
ずっと残り続ける。


彼らの良さは、
泥水を死ぬほど飲んだ頃に理解できる。


ただその時、
彼らはもう婚活界にはいない・・・。


孝行したい時に親はなし、
結婚したい時にあの彼なし。